The Wall (映画版) |
プログレッシブ・ロックの代名詞的なバンドの一つであるピンク・フロイドが出した大作 The Wall を映画にしたもの。かなり前の作品。
合計でどのくらいの長さがあるのか忘れたが、90分ぐらい延々と、一人の男の物語が音楽と映像で語られる。
まず主人公の父親が戦場で死ぬところから始まる。多くの人々が死んだ戦争。まるで壁の中のレンガの一つのように扱われる人間。題名の The Wall がまずレンガ壁のことを指す言葉として出てくる。
親を亡くした主人公の少年は、やがて学校に入る。秩序正しく構築された教育システムで育てられる子供たち。やはりレンガ壁の一つである子供たち。家庭では「女房」にびくびくしながら暮らしているのに、学校ではシステムを構成する部品を演じる教師たち。
少年はやがて大きくなる。dirty woman と遊びたい、という大胆な歌詞の歌と映像が繰り広げられる中、青年はそれらに見向きもせずに働きつづけ、広くてこぎれいな部屋を手に入れる。そこへ dirty woman が入ってくるが、テレビを見続ける彼。やがて狂気の世界へと入っていく。
自分と周囲の人間を隔てる壁。
なぜかヒットラーをほのめかす独裁者になる主人公。ゲイやユダヤ人など、一部の人間を排斥して大衆の心をつかんでいくが、やがて没落して裁判に掛けられる。こいつを隔離すべきだ。ということでまたしても壁。
とまあ、ざっとストーリーを追ってしまったが、さてこの作品の魅力とはどんなところなのだろうか。
私はまず前半の、戦争で人間がレンガのように死んでいくところに圧倒された。人が死んで墓の十字架となる不気味なアニメーション。父親の死を知らせる手紙。人が実際に死ぬ映像はなくても、それ以上のリアリティで無慈悲な死を描き出す。
次は dirty woman のところだろうか。あいつらはバカな女(男)なんだ、と思ってみても、やはり彼らの世界にひきつけられてしまう。太った警官が女の奉仕を受けてニヤつくシーンを見て、こんな悪いヤツは絶対に許せない、としか考えられない人はどこかおかしいはずだ。
システムに組み入れられて育った主人公が、物質に我慢できなくなって発狂するシーンは、ストーリーとしてはいまでは陳腐に感じられる。しかし、言葉だけの文明批判ではない。質のいいアニメーションと実写の融合により視聴者に強烈なイメージを与える。やがて精神が落ち着いてきた主人公は、周囲に転がるがらくたで呪術的な奇妙な遊びをはじめるが、本能への回帰をあらわしているのだろう。
ここから主人公がなぜか独裁者になる。システムに組み込まれて一度発狂した人間が、本能にめざめてかえってむき出しの本能にとりつかれ、そこから大衆を本能で操る独裁者が生まれた、とでもいいたいのだろうか。独裁者と彼に心酔する大衆とは呪術的なものにとりつかれたのだ、という表現に違いない。
ところで欧米では、ヒットラーが精神異常者だったということが当たり前のように議論されているようである。理性的なシステムを作り上げることで社会・国家を管理することがなぜできなかったのかを、本能や呪術や精神異常などというもので片づけていいのかという疑問を感じるが、そう考えなければ戦後史観のままでそれらしい結論を出すことが不可能だからではないかと疑う。
素晴らしい作品であることは疑いない。
ただ、今回私は三回目の視聴になるのだが、ようやく気がついたことがある。イデオロギーの偏向という点で見れば明らかに偏向している。戦争・学校・社会統制の単純な否定は、彼らのいた時代・場所では自然だったのだろうか。
前半では人間らしさが必要だと主張するが、後半では人間らしさが一方で独裁者を生むということを描いてみせる。では、人間はどのように道を歩んでいけば良いのか。学校はいらない、と言っているが、本能もダメなんだよというメッセージは、独裁者という都合のいい影に隠れている。独裁者はむしろ全体主義・統制の象徴であり、まさかこれを本能の象徴として描いているとハッキリ考えることのできる人が果たしてどれだけいるか。このあいまいさ、都合の良さがなければ、この作品は間違いなくこんなに持ち上げられることはなかっただろう。この都合の良さあってこそ、左翼的な影響を受けた人々のレールに乗っかってヒットしたのだと思う。
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