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オールナイトライブ
主にゲーム業界周辺について描いてきた作者が、マンガ専門誌「ビーム」に自分の趣味を中心に描いてきたエッセイ・レポートマンガ。全体的に、うんこなどの下ネタや業界話が多い。作者の鈴木みそは、いまではファイナルファンタジーオンラインのマンガを描いていることで有名…かも。

自分に正直な人のようで、まさに描きたいことを描いているという感じ。下ネタも、下ネタにおぼれてただただ下品な作品と違い、自分が素朴に興味を覚えたことをそのまま描いていて、好感が持てる。

大便をしたあとで紙で尻をふくときにどうやるか、という馬鹿馬鹿しいことを知り合いからまじめにアンケートを取るあたり、まさに自分の興味を突き詰めていっているところだろう。なんというか、「読者のみなさん知りたいでしょ!?」みたいないやらしさがなく、「自分が知りたいから調べてみた」という姿勢がとにかく読んでいてきもちいい。茶化しが一切ないのだ。

一方で、世の中のしくみについて真剣な姿勢を持っていて、検便を調査する側の知り合いからもっと面白い話が聞けるということで紹介してもらった検査センターで、どんな面白い話が聞けるだろうと話を聞きに行ったら実はそこは血液を中心に検査している場所で、そこで聞いた話をまじめにマンガにまとめている。

風俗関係にも切り込んでいる。コスプレイメクラも、いきなりむこうの女性を写実的に描いて現実はこうだというのを一瞬見せつつ、それ以降はインタビューで聞いた話を元にお客さんが要求してくるプレイの風変わりさを一つ一つ描いていく。吉原に行く話もあるのだが、費用がおりないので店を紹介するための喫茶店に入って通から話を聞いて終わり、と竹を割ったようないさぎよさがいい。

業界関係の話でなんといっても一番面白いのは、ゲーム専門学校の会だろう。なんと、ゲーム専門学校のゲーム科の進学実績がゼロに等しいんだというから驚かされる。講師二人に話を聞き、現代の若者の実態を恐ろしいまでに描き出している。この話は 5巻に収録されており、数ある業界話の中でも抜群に面白いのでぜひ読んでみてほしい。

本の業界についても、本の墓場や再生工場について詳しくレポートしていて、これがまた面白い。こぎれいだが迫力のある絵で、山積みにされた本と巨大な倉庫が描かれており、圧巻である。

奥さんがライターだそうで、いまも仕事をしているのか知らないが、とても積極的で個性的な人だ。マンガにたびたび登場してきた。水中での出産シーンをここまで写実的に描いてしまっていいのだろうか。まるでカバみたいだ。ただし写真をみるとそれなりにかわいい感じの人だった。夫婦で作家だとこういうことができるのだなと興味深い。

鈴木みその絵は、そんなにクセがないので、この絵が嫌いという人はほとんどいないだろう。基本的にデフォルメ調の絵なのだが、女の子の描き方はすっきりとした線でいて魅力的な絵になっている。基本的にオールラウンドに描けるみたいで、ポップ調も写実調もできる。器用なのだろう。アニメ調の絵すら描けるが、自分で描いた女の子に作者の分身が「この髪どうなってるの?」と突っ込む余裕すらある。

なんというか、こう言うと分かりやすいようで分かりにくいが、鈴木みそはまじめで好奇心旺盛な普通の人が画力と頭を持ったような感じである。一言で言うと非凡なのだが、限りなく普通の感じがする。普通なのに能力があるというのは実はすごいことだと思う。能力があるとどこか屈折しそうなものだ。

このマンガではないが、コナミの人気コンピュータ恋愛シミュレーションゲーム「ときめきメモリアル」について、こんな女の子への得点稼ぎが目的のゲームは間違っている、という指摘はなかなかできるものではない。その上で、自分の若い頃の青い経験を描いて真剣に語っている。なにも特別なことは言っていないように思うのだが、この普通のことを赤裸々に言ってしまうところに深い尊敬すら感じる。ちなみに一部の読者から脅迫の手紙をもらったらしい。

マンガを描きつつ、テニスが日課らしい。鈴木みそは自分のホームページを持っていて、日記を描いている。その中で、自分はテニスという趣味がなければ家の中でマンガばかり描いて白くぶくぶくふくれていただろう、と率直に描いている。その他、文章も面白く、結構書いているので、見てみるといいだろう。ゲーム世代の若者に対して、生き方の一つのモデルを発信していると言っていいのではないだろうか。

家のローンが残っている中で、この連載を始めとして最近仕事をやっていないという話を聞くが、ぜひこれからも発信しつづけてほしい。双璧・桜玉吉が本格的に鬱に苦しんでいるのと違い、鈴木みそは自らのライフスタイルのありかたを考えた上で余暇の豊富な暮らしを選んでいるので、いずれまた仕事を始めるだろうが、いまからとても待ち遠しい。ホームページの文章もマンガと同様面白い上にタダなのでこれで十分なのかもしれないが、やはりさみしい。
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