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やんちゃなガキ大将の小学生・石田将也は、同じクラスに転校してきた難聴の女の子に対してひどいいじめを主導する。そのいじめが校内で問題となり、逆に自分が主犯として吊るし上げられ、一緒に彼女をいじめていたクラスメイトたちからも手のひら返しされる。そのまま中学高校と孤独な生活を送った将也は、後悔と贖罪の気持ちで自殺を決意し、最後にその女の子に会いに行く。少年マンガ。

マンガ好きの間で話題になっていた作品だったけれど、ちょっとテーマが重そうだったのと、障がいを扱っていたので逆にありきたりな内容なんじゃないかと思ってあまり読む気がしなかった。アニメ映画化されてつい先日地上波初放映されたので、とりあえず録画だけしてからこの原作本を読んでみた。すごく面白かった。

いじめをしていた少年がいじめられていた女の子に対して贖罪(罪を許してもらう)の気持ちを持って触れ合っていく物語なのかと思っていたら、まあそれは確かにそうなのだけど、生き方を扱った話だった。分かりやすい特徴として、登場人物全員、いじめられていた女の子も含めて全員が何かしらの問題を抱えているのだけど、それだけじゃなくて、自分の問題と向き合う人もいれば、逃げる人、抑え込む人、気づかないフリをする人もいて、それぞれがんばって生きている。

まず主人公の将也は、単行本の一巻だと絵に描いたようないじめっ子で、正直読んでいてムカムカした。床屋をやっている母親の腕一つで支えられている母子家庭で育ち、姉はたびたび男を変え、自身は日々の退屈な生活の中に刺激をもたらすことだけを考えて生きていた。そんな彼が難聴の女の子をいじめるようになるのは必然だった。小学生なので物の価値が分かっておらず、彼女の持ち物を水の中に落としたり、高価な補聴器をたびたび壊したりする。

難聴の女の子の西宮硝子は、補聴器をつけていてもみんなの声を聞き取るのが難しいので、よく聴こえなくてもニコニコしてやりすごしていた。周りから悪意を向けられても、それをやりすごすために逆に「ありがとう」などと返すようにしていたことから、逆にいじめを助長することになる。

あ、これあまり解説しないほうがよさそう。将也の視点で徐々に色んなことが明らかになっていくのがいいので、知らないまま読み進めていったほうが楽しめると思う。

自分が何に一番感動したかって、難聴の女の子のいたたまれない気持ちがかわいそうだった。彼女にとっては、自分がいじめられることよりも、もっと悲しいことがあった。その気持ちが明らかになるシーンがとてもジンときた。自分が誰かの役に立つことを出来るようになって仲良く出来ると思ったらそれが受け入れられなかったり、自分に対する周りのみんなの温度差がもとでいさかいが起きてしまったりして、自分なんていなければよかったと絶望してしまう。

彼女の妹の結弦がかわいい。障害を持つ姉を守ろうとしてきた健気さと、そのために自分が不登校になって生きづらくなっているところ。最初は将也のことを敵視していたが徐々に仲良くなり、ぶっきらぼうに触れ合うところ。性格だけじゃなくて絵もボーイッシュでかわいい。

将也と一緒になって率先していじめに参加していたクラスの女の子の植野直花は、校内カースト上位の美人で、分かりやすく西宮硝子の敵役となっている。こいつはずっと将也のことが好きだったので、そのこともあってか何かと硝子に対して敵意を持ち続け、実際に対決するシーンまである。普通に考えれば嫌な奴なのだけど、こいつの言うことにも一理あるし、全力で生きていることに好感が持てる。

一方の優等生の川井みきは、自分だけは良い子ちゃんでありつづけたいと思い、イケメン男子の真柴が将也に近付くようになると将也のグループに接近してブリっ子する。でもそんないけすかない彼女さえも作者は否定的には描いていないように感じた。真柴のことを必ずしも肯定的に描いていないのと同様に。

とにかく人物造形がとてもリアルで、読んでいてえぐられるように感じた。自分も昔だいぶ失敗したことを思い出した。でも自分の失敗はこんな分かりやすくないんだよなあ。まあ多くの人がなにかしら思い当たったり連想したりすると思う。

批判的なことも書くと、障がい者とどう付き合っていけばいいのかというテーマには、もっと触れたほうが良かったと思う。西宮硝子と本気で向き合っていたのは植野直花だけだった。結局のところ、将也も硝子と向き合えていなかったように思う。最後の方で将也が硝子に「生きるのを手伝ってほしい」みたいなことを言うのだけど、これまでの将也のありようを考えると、このセリフって出てくるんだろうか。

いじめっ子がいじめられっ子になるという現象は、おそらく十数年前ぐらいからだと思う。週刊誌かなにかで読んだ覚えがある。そのせいか、自分にはあまりピンとこなかった。

将也が小学生の頃の担任教師の行動原理がよく分からなかった。自己責任というキーワードが出てくるので、あえて大人として振る舞って将也に分からせようとしたのだろうか。教師が込み入ったことをやろうとしても子供は混乱するだけなんだとでも言いたいのだろうか。

自分が小学生だったころ、難聴の女の子が隣のクラスにいた。補聴器をつけていて、本当に宇宙人みたいに訳の分からない言葉をしゃべっていた。聴覚に障害があると話す言葉にもフィードバックされなくなるので作中にあるようにヘンな発声になるし、たぶんそのせいで知能の発達も人より遅れると思う。同じクラスじゃなかったので、授業に影響があったわけじゃないし、直接かかわりがなかったのでうっとうしく思うこともなかった。むしろ怪しい魅力があってかわいいとさえ思った。当時の感覚からすると、あの女の子をいじめる気になるような人がいるとは思えなかったけれど、小学生のガキは何をするか分からない危うさがあるのも確かなのでありえる気がする。

自分にも身体障がい者の友人がいたけれど、遊ぶときはどうせ家がほとんどだし、移動も自転車の後ろに乗れるので普通の友人と大して変わらなかった。あ、二人乗りは法律違反なんだっけ。彼は特殊な靴を履いていたので脱いだり履いたりするのを手伝ったりはしたけれど、本当にそのぐらいしか違いはなかった。高校の頃からの友人だったし一応進学校だったのでいじめなんて起きようがなかったし。

小学生の頃、知恵遅れのクラスメイトがいて、なに言ってるのかよくわからないので関わらないようにしていたのだけど、一度なにかうっとうしく絡んできたことがあったので、思わず彼のことを痛めつけて逃げてしまったことがあった。大変なことをしてしまったと思っい、彼が怪我をしたかもしれず自分が責められるのではないかと思ったけれど、次の日学校に来てみたら別になんともなっていなかった。以来彼には何もしなかったし、話しかけられたら分からないなりに適当に受け答えするようにしたが、自分から話しかけようとも思わなかった。それから私が転校することになったときに、わざわざ母親と一緒にきてビニールでできたブドウのおもちゃ?をくれたのを覚えている。

中学の頃、やはり知恵遅れのクラスメイトがいて、訳の分からないことばかり言って意味不明だったので同じく関わらないようにしていた。しかしクラスには不良たちがいて、よく彼をからかっていた。あるときなんか、不良が彼を興奮させて彼が窓ガラスを殴ってガラスの破片で血が出る騒ぎが起きた。さすがにこのときはひどいと思って、ボンタン履いた不良に「やめなよ」と言ったのだけど(よく言えたなと思う)、「でもあいつ笑ってんじゃん」と返された。知恵遅れのクラスメイトに関わらないようにしていた自分と、時々からかっていたその不良と、どっちが彼にとってよかったのだろう。

答えは一つじゃないので、放っておいて欲しい人もいるだろうけれど、たとえば難聴の子が聴き間違えして空耳してしまったとき、それが面白かったらからかって笑い飛ばすのだってアリだと思う。少なくとも、言っても無駄だからと相手しないのよりはずっといい。

話がだいぶ脱線したけれど、将也が硝子のことを守ると決めたのも彼の判断というか気持ちだし、こうあるべきというものでもないのだと思う。そしてこの作品は、障がい者だろうとそうでなかろうと、現実の世の中を削り出して見せて、さてあなたはどう思いますかと問いかけているように感じた。

という深遠な作品なので、分かりやすい感動を求めている人や、こうあるべきだという決まった真実が欲しい人にはあまり勧められないけれど(そういう人にもちゃんと味わえるものが用意されているところもまたすごいのだけど)、色々と自分で考えてみたい人には素晴らしい作品だと思う。

うーん、アニメ映画版をいつ見ようか。
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