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蟲師 1巻だけ

漆原友紀 (講談社 アフタヌーンKC 他)

駄作(-30点)
2014年6月8日
ひっちぃ

日本の農村っぽい場所を舞台に、「蟲」と呼ばれる架空の超常現象に振り回される人々の悩みや願いを、「蟲師」のギンコが解決していく。幻想文学的なマンガ。

アニメ化されたのを見てすぐに視聴をやめた。最初に断わっておくと、自分はこの作品をどうしようもない駄作だと思っていて、それなのに売れていてアニメ化もされて海外のファンもいるというので、いったい何が面白いのか一度原作をじっくり読んで確かめたいと思ったので読んでみた。そしてやっぱりこの作品は駄作だとの思いを新たにした。

「蟲」というとどうしても宮崎駿「風の谷のナウシカ」を思い出してしまうのだけど、この作品では虫っぽいものに具象化されることの多い架空の超常現象を指す造語として使われている。自分は1巻しか読んでいないのでその範囲で紹介すると、人間の耳に寄生して音を食べる「阿(あ)」という蟲がいて、村人たちに寄生して困っているところへ蟲師のギンコがやってきて追い払う。しかし村で一人だけ重症の少年がいて、そいつにはさらに別の蟲が寄生していて…。とこのように、蟲にまつわる話が連作短編としてつづられていく。

都市伝説という言葉が流行ったけれど、この作品はそういった民間伝承を装った話の作りをしている。いわば創作伝承なのだ。

民間伝承の魅力って、人々の暮らしの中で自然に生まれて、その中から人づてで伝わっていくに従って本当に心惹かれるものだけが残るという過程によって初めて生まれるものだ。世界各地に似たような話が残っているように人類普遍の真理もあれば、民族固有の文化や性質が反映された独特の話もある。

つまりそもそも一人の作家が創作しようと思ってできる種類の話ではないのだ。それなのにわざわざ民間伝承の形に似せているのは、民間伝承の持つ独特の魅力の上澄みをかすめ取ろうとしているだけなんじゃないかと思う。この作品を読んで魅力を感じている読者というのは、いままでにいろんな民間伝承やそれをもとにした話を見聞きしたときの経験が呼び起されているだけなんじゃないかと思う。

この作品のひどいところは、ただ伝承を創作しただけで、そこに大した物語も寓意もないことだ。大いなる存在に取り込まれた少女だとか、破滅に向かうしかなかった男とか、色んな登場人物が出てくるのだけど、彼らから「蟲」を取ったらほとんどなにも残らない。たとえば有名な「オオカミ少年」の話だと、ウソをつきまくって誰からも信用されなくなった少年の物語があり、ウソをついているとよくない目にあうという寓意がある。しかしこの作品にはそういったものがロクにない。超常現象によってわけのわからない目にあった人物にいったいどんな面白い物語があるというのだろう。

わざわざ伝承を創作するんだったら、たとえば現代的なテーマから逆算的にたとえば能町みね子のように「妖怪フォロー外し」みたいなものを考えて話を作っていくべきだと思う。きっとこいつはTwitterなどのSNSに気疲れしている現代人の間で生み出された伝承で、これを軸にいくつかの物語が生まれそうな気がする。

ただ、いかにもそれっぽいものを創作することには価値があるとは思う。リアリティを積み上げていって独特の世界を構築することで、現実とは違うものを体感できる。読書の楽しみの一つというのはそういったところにもあるというのは認めざるをえない。

まあだから精一杯の皮肉を込めて言うと、この作品はきっと読書好きの上級者向けなんだと思う。

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