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そうだ、売国しよう 〜天才王子の赤字国家再生術〜 17巻まで

作画: えむだ, 原作・原案など: 鳥羽徹 (スクウェア・エニックス ガンガンコミックスUP!)

傑作(30点)
2025年12月6日
ひっちぃ

ウェイン王子は弱冠16歳にして父親の急病により摂政となりナトラ王国のすべてを取り仕切るようになったが、弱小国ゆえ国を売って隠遁生活を送りたいとこぼしていた。しかし、降りかかる事態に対処しているうち、大陸に名を轟かせていく。ファンタジー小説が原作のコミカライズ版。

2022年にアニメ化されたのを見て、国家間の謀略や戦争が描かれているのにコンパクトでスピーディな展開にとても楽しめたので、いずれ原作を読んでみたいと思い、一度すっかり忘れ(笑)いまになってやっと読んでみた。とてもおもしろかった。

まずはナトラ王国の現在の状況説明を兼ねるように帝国からの圧力を受ける場面から始まる。大陸の東側を占めているアースワルド帝国は強大な力を有しており、北方の小国ナトラは帝国軍の駐留を認めている属国のような立場だった。そんな中で、さらに帝国からの要求が強まったため、これを気にウェイン王子はナトラ王国を帝国に併呑させて自らは気ままな引退暮らしを送ろうとするのだが…。

ウェインには腹心の部下ニニムが付き従っている。こいつは被差別民族フラム人の16歳の美少女で美しい白髪と赤い瞳を持っており、ウェインがお忍びで行った帝国士官学校の学友でもあった。王子と臣下にも関わらず遠慮ない関係で、ウェインのことをよくどついたりしているw こいつが完全に正ヒロインだと思う。

国家運営の話なので大勢の家臣が出てくるのかと思いきや、老将ハガルや若き隊長ラークルム、そしてウェインの妹で王女のフラーニャとその護衛ナナキぐらいしか主な登場人物がいない。国王とかフラム人の族長とかもたまに出てくるけど、ほんとそれぐらい。

外交に戦争にと次々に話が進んでいく。ウェインは深謀遠慮を巡らせるだけでなく、時にその場で大胆すぎてあっけにとられるほどの行動を起こしていく。こんなにクルクルと事態が動きまくる国家運営ものって他にないと思う。一方で内政に関する描写は薄めか。でも貿易を考えたりする場面はあった。

ウェインは帝国の皇女ロワとは士官学校で仲が良かったこともあり、その縁で彼女の野望に巻き込まれる。帝国は一枚岩でなく三人の皇子が後継争いをしており、そこに皇女ロワが割り込もうとするので付き合わされる。こいつもウェインのことを好きなのかもしれないけど、それよりは自身の野望のほうが大事な感じ。容赦なくウェインを利用しようとするところがウケる。

戦記物の傑作って大体現実の歴史をモデルにしているものが多いんだけど、この作品も多分に漏れずそういうところがあった。大陸の東側には強大な帝国があり、西側にはキリスト教っぽい宗教でまとまった諸国があるので、ちょっと違うけれどペルシャやトルコ対ヨーロッパ諸国って感じがする。南側にはベネチアっぽい海洋国家まである。じゃあナトラ王国って現実のどの国にあたるんだろう。語感も似てることだしナポリ王国あたりか?でも不凍港がないみたいだし帝国が中央にいるせいで巡礼路が小回りになりナトラを通らなくなったという描写があったので全然違うかもしれない。

フラーニャ王女は完全なマスコットでブラコンキャラなのかと思いきや、兄の仕事を手伝いたいという想いが強く、兄の名代として行った商業都市の社交パーティで少々痛い目に遭うものの議会を見学していて覚醒し、独特のカリスマ性とひたむきで意志の強いところを見せるようになる。かわいい。

ウェイン王子は外交や戦争といった戦略の天才なんだけど、内政や統率はそこまでじゃない感じ。人心掌握術としては部下の名前を暗記して個別に声をかけるなんてことをやっている。あと、判断能力はあって勘も鋭いんだけど、よく足をすくわれてピンチな状況から始まることが多いw だからあんまり鼻につかないし、売国しようなどと斜に構えていてもそれほど嫌味に聞こえない。

国家内や国家間の権力闘争の描写がとてもリアルだと思う。たとえば帝国の後継者争いだと、それぞれの皇子がどんな権力基盤を持ち、どういった方法で封建貴族や民衆の支持を得ようとしているのか。最終的には具体的に皇帝に昇り詰めるための手続きがあるのでそこを目指して戦う。こういう力学がリアルだからこそ、ウェイン王子の才がすごく引き立って見える。

そんなわけでどのエピソードも大体良かったんだけど、デルーニオ王国との戦いの決着がなんかよくわからなくて納得できなかった。理屈ではそうなんだろうけど…って感じがぬぐえなかった。本気でその作戦やったらフラム人のことはどうするのって思った。あと、海洋国家のエピソードもなんか微妙に感じた。

ロマンスに関してはウェイン王子が全然ニニムにデレてないので今後もあまり進まなさそう。ニニムのことを本当に大事に思っていることは伝わってくるんだけど、ウェインは自身の結婚のことも外交カードの一つだと考えていてそれを公然と口にしている。でもなにかの拍子に急にデレるのかも?

絵は正直ちょっと怪しい部分もあるけれどおおむねいい感じだと思う。ニニムもフラーニャもそれぞれ特徴があってかわいいし、ロワの油断ならないところもよかった。グリュエール王が超デブなのに妙に顔が精悍なのは違和感あった。

萌えキャラの方向性が偏っていたり、ウェイン王子がいくらがんばってもナトラ王国が小国のまま変わらなかったりと、人を選ぶところもあるかもしれないけれど、他になかなかない魅力を持った作品なのでぜひ読んでみてほしい。

[参考]
https://www.ganganonline.com/
title/
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