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    原作: 芝村裕吏, 作画: キムラダイスケ (講談社 アフタヌーンKC)

    傑作(30点)
    2024年6月3日
    ひっちぃ

    ゲーム系の専門学校を卒業してからダラダラとニート生活し、ようやくデザイン会社に就職したと思ったらその会社が倒産した新田良太は、追い詰められて民間軍事会社「自由戦士社」の求人に応募する。一見なにかのゲームのような適性試験を受けさせられるが…。「ガンパレード・マーチ」「刀剣乱舞」などの主要スタッフとして知られる芝村裕吏による小説のコミカライズ版。

    なにかで話題に上がってそのうち読んでみようと思ったものの、そのなにかが一体なんだったのか思い出せなかったw でもとてもおもしろかった。

    その会社の「適性試験」がまるでゲームみたいだったので、ゲームが好きで得意な新田良太はそれを淡々とこなしていく。…あ、これあんまり話の筋書を紹介しちゃいけないタイプの作品なのかな。

    民間軍事会社といえば一昔前に話題に上がったので国際情勢のニュースが好きな人は当たり前のように知っていると思うけれど、知らない人のために簡単に解説すると、一国の軍隊がおおっぴらに参加できないような軍事行動を、軍隊ではない民間組織が請け負っている。

    なぜ軍隊がおおっぴらに参加できない場合があるのかというと、一言で言えば正規軍には国際的に守らなければならないルールがあったり、その国が直接戦争に関わっていることにはしたくなかったりするから。たとえば、軍服を着るというのは軍隊の国際的なルールであり、正規の軍人には捕虜になる権利や虐待を受けない権利なんかがあるけれど、民間軍事会社にはそれらがない。

    たとえば近年のウクライナ紛争では、ロシア側がワグネルという民間軍事会社を使ったのは囚人を動員したり非人道的な作戦を行ったりしたかったからであり、逆に西欧諸国はおおっぴらにウクライナ側にたって参戦したくなかったので民間軍事会社を使って軍事協力している。

    そんなわけで新田良太は、同僚とともにアメリカ軍の下請けとして軍事作戦をこなすようになる。自分が本物の戦争をしていることに気づいた新田良太は、その現実に打ちのめされそうになるのだけど、なんとか立ち直って覚悟を決める。その彼の手ごまはなんと少年兵だった。自分たちのために指揮をとる新田良太のことを少年兵たちは大空から見守るイヌワシのようだと尊敬し、その中でもジブリールという少女は新田良太に恋心を描くようになる。

    物語としては、新田良太は行き場のなくなった少年兵たちのために独立し、彼らが戦場ではなく普通の仕事をして暮らしていけるよう勉強させ、そのあいだ彼らを養うために各国を渡り歩いて一緒に戦争の仕事をする。いつしか彼は「子供使い」として業界で知られるようになる。

    自分は最近こういう国際情勢とか地域紛争とかにとんと関心がないので知識も古いし、そもそも小学館の国際情報誌SAPIOを一時期読んでいたぐらいなので大したことは知らないんだけど、大国が裏で自らのエゴというか利益のためにどのように紛争地域に絡んでいるかが多少の想像で補われながら分かりやすく描かれているほか、大国だけを悪として描くのではなく各勢力もそれぞれ自分たちの都合によって動いているということが分け隔てなく描かれていて、とても素晴らしいと思った。

    武器の調達から描かれるのがすごくリアルだった。特に日本編では、ボウガンから調達している。日本ではつい最近ボウガンの所持が原則として禁止になったのだけど、この作品が描かれたのはそれより少し前だった。闇で売買している商人から買うという作り話にありがちな方法も取るのだけど、それ以外の方法が真に迫っていた。

    戦闘は基本的に銃撃戦になるのだけど、アサルトライフルで突撃するだけでなく、スナイパーライフルで遠くから狙撃したり、グレネードで広い範囲を攻撃したりする。どこを拠点にするか、どこから狙撃するか、どういう作戦をとるか、いろいろあっておもしろい。

    兵たちと指揮官とはIイルミネーターと呼ばれる統合情報処理端末によって情報リンクされている。指揮官はPCやタブレット端末から兵の状況を把握してやりとりできるようになっている。高度な現代戦が描かれている。戦場の描写もわかりやすかった。

    いろんなクライアントから仕事の依頼を受けるのだけど、日本の謎の機関からの仕事もあった。イトウさんという謎の若い女性から接触を受け、おおっぴらにできない裏の仕事を請け負う。正直ちょっと考えにくい内容が多かったのだけど、なさそうでありそうな(?)話ばかりだった。

    この作品の大きな魅力は、いろんなタイプの魅力的な女性が多く出てきて活躍すること。前述のイトウさんもそうだし、その上司と見られる年配の女性、少年兵の主要どころ、某国のNGO代表、訳ありな娼婦、敵勢力の有能な指揮官。みんないきいきとして新田良太に迫ってきたり、自分の信念や職責に基づいて行動している。丸みのある絵でかわいい。一方でさすがにこの男女比率は不自然ではあるけれど。

    そういうところも含めて、コミカライズ版の掲載誌である「アフタヌーン」の色を濃く感じた。もともと原作小説があったのだけど、「アフタヌーン」の編集者が好きそうな要素が揃ってる感じがする。新田良太が訳あり娼婦からのサービス提供をかたくなに断って英会話を習おうとするところとか。

    国際紛争と戦争、仲間との生活がメインで、話の筋は抜群におもしろいんだけど、人間ドラマ的なものはあまり描かれていない。新田良太と女性たちとのラブロマンスも淡泊だった。子供を助けたいという気持ち以外にこれといって強い信念で動いている人は出てこなかったように思う。

    Wikipediaの情報によると、コミカライズ版にあたって教官トレバーを新たに投入したり、同僚の日本人男性キシモトの出番を増やしたりしているらしい。彼らを使って話を盛り上げようとしたんだろうか。正直どちらも性格や状況が極端でひどすぎるように思った。自分は原作小説を読んでいないので、コミカライズ版でいい脚色もあったのかもしれないけど、いまのところ劣化したんじゃないかと疑っていて、いずれ原作小説を読んでみたいと思った。

    そんなわけで、国際紛争のリアルな(?)描写や非対称な戦争もので、話の筋がおもしろくてキャラ(特に女性)が魅力的なこの作品を楽しめそうならぜひ読んでみてほしい。

    [参考]
    https://
    afternoon.kodansha.co.jp/c/
    marginaloperation.html

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