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    若木民喜 (小学館 ビッグコミックス)

    まあまあ(10点)
    2026年9月9日
    ひっちぃ

    一浪して京都大学に入学した山川可志夫(カシオ)くんだったが、周りがみんな頭いい人ばかりなので「人より勉強ができる」という個性を失い、身の置き場がなかった。そんな中で高校のマンドリン部で一緒だった女の子・沢北陽子が現役で一年早く合格して入学しており、おとなしかった彼女が女子プロレスラーとして京大一の有名人になっていたことを知る。青年マンガ。

    女の子を惚れさせるゲームが得意な男の子が現実の女の子相手に四苦八苦する「神のみぞ知るセカイ」を描いた作者による新作。この人は京大卒なので京大の描写がリアルなはずだし、再び名作くるかと思って期待して読み進めた。いまいちだった。

    カシオくんは沢北さんのことが好きだったわけではなく、コロナ禍の中で互いにマスクつけていて顔がよくわからず、ロクに会話もせずただ一緒にマンドリンを弾いていただけの関係だったみたいなんだけど、沢北さんのほうはどうやら違っていたみたいだった。

    そんな彼女がなぜ女子プロレスなんかをやりだしたのか?二人の関係は?カシオくんは自分の道をどうするのか?みたいなところがこの作品のウリなんだと思う。

    そして京都大学のこと。東大に次いで学力偏差値が高い京都大学よりも、京都では実は関西私大の雄である同志社大学の方が力が強いのだという。やっぱり国立大学よりも私立大学の学生のほうが元気があるらしい。そりゃそうか。五教科まんべんなく勉強するような学生は真面目すぎるんだろうなあ。

    京都大学と同志社大学にはそれぞれプロレス同好会があって時々交流戦をしており、両大学の学生たちの間で非常に盛り上がっているとのことだった。だからこそ沢北が女子プロレスラーとして活躍していることで京大一の有名人になれたという感じ。そういえばお笑い芸人コンビのレイザーラモンHGが同志社でプロレスをやっていた。

    京都の実業界では子女を同志社に入れることが多かったとのこと。まあ京都大学は普通に偏差値が高すぎて子供を好きに入れられないからってのもあるんだろうけど、同志社の方がお金があるからなんだろうな。同志社の女子プロレス同好会のエースは、京都の有名なお菓子屋さんの跡取り娘で、ブラックナイトというリング名のちょっと悪役っぽい令嬢だった。で本当はこの家には長男がいるんだけど、跡を継ぐのを拒否して京都大学に行っているという。ドラマの予感がしたけど5巻までだとあまり動きがなかった。

    これ本来なら沢北さんのほうが主人公なんだろうけど、それをあえてカシオくんにしたところがこの作品のカギなんだと思う。沢北さんは自分を変えたいと思って努力し、再会したカシオくんのことがやっぱり好きだと思って行動する。そんな沢北さんのことを戸惑いながら受け入れていくカシオくん。

    自分が努力して相手に受け入れられようとする物語ではなく、よくわからないうちに他人から好意を向けられ、相手の努力を見せつけられて戸惑う。こういう物語は主に女性側でよくあったことなんだろうけど、これまではあまり焦点があてられることはなかったと思う。あえてここを狙うのはおもしろいと思う。

    でもカシオくんからするとやっぱり居心地悪いし、京大一の有名人に惚れられたことを自分のアイデンティティにすることはできない。女の子の場合は強いオスのモノになることはそれだけで十分なアイデンティティになりうるみたいなんだけど(?)、男の子の場合そうはいかない。

    悩むカシオくんが行きついた先はマンドリンだった。マンドリンが弾けるなんてそれだけでアイデンティティになりそうなものだけど、高校の部活で弾いていただけだし、自分を誇るものではなかったんだと思う。人前で演奏したことをきっかけに、自分はこれじゃないかと思って打ち込むようになるカシオくんだったが…。

    「人より勉強ができる」ことが自分の一番の個性だと思ってる人っているんだろうか。勉強全振りで生きてきた人を知らないのでよくわからないんだけど、なにかしらあるものだと思う。特に若者って根拠のない自信に満ちあふれているものだし。勉強以外に自信がない人ってのもいるにはいるだろうけど、数は少なそうなのでカシオくんに共感できる読者も少ないと思う。

    正直カシオくんがマンドリンに対してそこまで思い入れているようには見えなかった。だからマンドリンに打ち込もうとするカシオくんのことを応援したい気持ちにならなかった。これは自分がこの作品をつまらないと思う理由の一つになっているのだけど、好きなことが最初から好きだった人なんていないわけだし、もやもやした中で自分を作っていく過程を描いているのかなあと思う。

    一方の沢北さんのほうも、プロレス同好会をやめると言い出したと思ったらすぐに撤回していて迷走している。同志社のブラックナイトに勝った!負けた!で物語が単純に進んでいくわけではない。学生時代に打ち込んだことの成果をどういった風に自分で消化していくのか?というのを描いていきたいんだろうか。好意的に解釈すればだけど。

    同じ作者の作品で「結婚するって、本当ですか」がアニメ化されたときに見てみたときは、旅行代理店に勤める地味な男女が偽装結婚して僻地への転勤を回避しようとする話で、なかでも地図の大好きな女が変わっていて最初はおもしろかったんだけど、それ以外はキャラもストーリーも地味に思え、途中でつまらなくなって見るのをやめてしまった。

    一番のヒット作「神のみぞ知るセカイ」を描いていたときは、悪名高かったサンデーの編集に言われて不本意な展開にしたんじゃないかって思うような唐突な展開が時々見られたんだけど、ひょっとしたらいまは自分の描きたいものを描きたいように描いているのかもしれない。って編集と作家との対立って編集が低学歴な作家をバカにして起きがちみたいなんだけど、作家が京大卒でも起こるものなんだろうか?

    絵はあいかわらずで、線のしっかりした見やすいギャグタッチで、個性的で変わった先輩たちが魅力的に描かれているように思った。一方で女の子はかわいいんだけどワンパターンな感じがした。

    正直あまりわかりやすい話ではなく、地味な子たちがそれぞれいろんな学生生活を送ろうとするのを見守って楽しむような作品なんだと思う。興味があれば読んでみるといいと思う。

    [参考]
    https://bigcomics.jp/series/34cf1a356edc5/new

    (最終更新日: 2026年9月13日 by ひっちぃ)

    コメント

    家族と親戚の話 ひっちぃ
    これは余談なんだけど、私の父親が同志社大学を出ていて、前に遺品を整理していたら第一希望の同志社大学に受かった喜びを親か親戚に報告する手紙が出てきた。卒業証書もまだとってあった。死ぬまでの何年かは脳梗塞の後遺症でちょっとボケていたんだけど、大学一般の話題になったときに急に寮の住所をそらんじてびっくりした。在学中に旅行に行ったときの写真もいっぱい出てきた。人生で一番楽しかった時期だったのかも。
    ...
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